ピクルドエッグを食す

イギリスの食文化の貧しさ、もとい素朴さが際立つ一品。

酢に漬けたゆで卵。原料は卵と酢、それ以下でも以上でもない。

漬けてあるのが米酢のような醸造酢ではなく、蒸留酢であるホワイトビネガーの為、酸味が鋭い。勿論酢からの旨味は全く感じられない。キュウリなど他のピクルスが砂糖や胡麻で味や風味を漬けてあるのとは対象的である。

これは食べ物として完成品なのかという疑問はさておき、こんな工夫のないものを瓶詰めにして売るという感覚も驚嘆に値する。

断っておくが、私自身は割りと嫌いではない、食べ始めると癖になり、むしろ素朴で美味しいと感じてしまう。

これを初めて知ったのは、友人に誘われて先月訪れた、ビールフェア ”CAMRA Great British Beer Festival”での事。

ビールフェア自体に言及しておくと、これは楽しかった。英国全土のクラフトエール/ビールが集まるイベントで、大きな展示会場は酔っぱらいのおじさんだらけ。ビールのブース以外にも、食べ物の屋台やテキ屋の様なゲームまである。大の大人皆童心に帰っているが、もちろん18禁。

そこにピクルドエッグの屋台もあって、友人に進められて挑戦することに。
このビジュアルでしかもイギリスの食べもの。。。。なんか濁った液体に入ってるし、色もヤバイ。大体イギリスで見た目よりもまずいものはいくらでも知ってるが、見た目よりうまいものなんて見たこと無い。久々に本能が危険信号を鳴らしている。そんな未知との遭遇であった。

みんな大好きなのだろうか、結構イギリス人がブースにたかっている。小さな紙袋の中に酢卵とポテトチップを入れ、中でポテトチップを粉々にして、袋の中でシャカシャカして食べている。
確かにコクばかりでキレの少ないまったりしたイギリスのエールには、キュッと酸っぱい卵は相性がいい。でもなあ。ドイツ人がソーセージで、スペイン人がタパスでビールを飲むのとはえらい違いなんだよなあ。

最近イギリスの食べ物には驚かなくなったのだが、久々にやはりすごい文化だと思った出来事だった。

イギリス恐るべし。

だから僕は肉を焼く

fire夜中の23時。俺は肉を焼いている。
オーブンの灯りが静まり返ったキッチンに寂しげに仄めく。

肉が食べたいからではない。
明日娘に食べさせる肉を焼いているのだ。

今週日曜日から1週間、妻が日本出張に行っている。残された自分と娘。
今日は2日目の晩が終了。ここまでは全て自分で対応した。

明日は小休止。ナニー(ベビーシッター)にお願いして、ナーサリーの迎え、食事、風呂、寝かせまでお願いする予定。
自分はすこし遅くまで仕事をして、普段見ぬロンドンの夜の街をぶらついて帰ろうかと思っている。

ところで、ナニーに子供の食事をしてもらえるといってもご飯の用意はコチラでしておかなくてはならない。shiokoji_chickenとりあえず明日の子供の夕食は、妻が作り置いてくれたものと、今焼いている鶏肉の塩麹漬け。作り置きはインゲンの胡麻和え、高野豆腐。味噌汁はフリーズドライのインスタントに。

勿論作り置きをしてくれた妻には感謝なのだが、自分と子供の2人だと、楽な面も実はある。
一番は炊事の手が抜けること。家事・育児における炊事の負担はハンパないのだ。

だから、子供の分さえきちんと食べさせれば、自分は正直どうでもいい。晩御飯はビールにピーナツとか、ワインにチーズとか、ちょっと小腹が空けば辛ラーメンにもやしをいれればそれで十分。

子供の食事でさえ、買えば済むソリューションも日本ほどではないが、それなりにある。例えば冷凍餃子、日本製だけでなく、韓国製や中国・香港製も合わせると結構なバリエーションがあるし、とくに中華圏の水餃子は美味しい。子供も大好きである。

そしてピザ。こちらのピザは4−5ポンドで具だくさんな冷蔵ピザが売られている。これをオーブンで焼けば日本の配達ビザとほぼ変わらぬクオリティのピザが食べられるので、自分は赤ワインでも開けて、これを娘とシェアすれば十分。

あとは乾麺のうどんやひやむぎ。細かく刻んだニンジンや白菜をうどんスープで煮込み、うどんを合わせるだけ。野菜があまり気にならない形で食べてくれるのが良し。

20分経過。ひとまず完成。ネギっぽく見えるのはリーク。ネギより大きいので、写真では鶏肉が小さく見えてしまう。これで明日は安心だ。とりあえず焼き鳥臭くなった身体をシャワーするか。今日は娘はぐっすり寝ているようだ。

 

ひとりぼっちの夜。ちょっと幸せ。

アルハンブラの思い出スープ

Granada

アルハンブラの思い出

思い返せばもう1年以上前、昨年6月に母をスペインに連れて行った。バルセロナからアルハンブラ宮殿のあるグラナダ、そしてミハスという行程、家族全員ではなく、当時専業主夫だった私が、ロンドンに遊びに来ていた母を連れ、子供の面倒を妻に託し、生まれて初めて母子二人旅をしたのだ。

その時、グラナダで食べた思い出の味。それがこのスパニッシュスープ。
served

思い返すとグラナダ到着当日は大変だった。LCCの貧乏旅行ゆえ、バルセロナからグラナダのフライトが大幅遅延し、我々はヘトヘト。その後空港から乗った市内までのバスの降りる場所を間違えて、一つ先まで進んでしまい、タクシーも捕まらない中、大きなスーツケースを引きずり、トボトボと歩いてホテルに向かう羽目に。

夜9時をまわり、日もすっかりくれてきた。さすがに六十過ぎの母は限界を迎えたため、歩いている途中に見かけたレストランに入ろうと叫びだした。

それはよくある広場の観光客向けレストランと言った風情。正直私は不満たらたらだった。旅行の貴重な楽しみの一つであるメシというイベントを、ネットで口コミも確認もせず、こんなリスキーな状態で迎えたくはなかった。

だが、そんなことは言ってられない。仕方がないので、前菜のスープと、サラダ、そして普通に肉を頼んでさっさと食って、ふて寝でもするか。ホントはパエリアとか、タパスとか食いたかったのに。

と思っていた矢先であった。

ここで適当に頼んだ本日のスープが、とてもうまかったのだ。

見た目は単なる野菜スープでピンとこなかったのだが、味は最高だった。ドライソーセージが入っており、そこから抽出されたと思われるダシがガツンと効いている、そしてホウレン草がクタッと入って口当たりが良い上少々ほろ苦い、最後に細かく切ったゆで卵が入ってコクや深みを加えている。

特に最後のゆで卵が入っていることに驚いた。折角の透明なスープが黄灰色っぽく濁ってしまうのである。中華スープの溶き卵なら許せる、ふわふわな卵がまるで白糸の様な繊細さを以ってスープの主役を演じている。

翻ってこちらはただの粉っぽい黄身と、細かく砕けたプリプリの白身が、普通に食べればそこそこ美味しそうな野菜コンソメスープに渾然と浮かんでるのである、日本人の美的感覚からはありえない。

だが、ゆで卵が入らないと美味しくないのである。

その後ロンドンで英語やスペイン語のレシピを研究し、自分なりのレシピをまとめた。一応備忘録的に記しておきたいと思う。

スパニッシュスープ・レシピ

  • 材料(4人前)
    • 水      720ml
    • サラミソーセージ     150g
    • にんにく     1カケ
    • ローリエ   2枚
    • ベーコン(もしくは厚切りハム・ソーセージ)100g
    • ★玉ねぎ 1/2玉、みじん切り
    • ★セロリ 一本 小口切り
    • ★ひよこ豆   1/3缶
    • ★じゃがいも 1個、1センチのダイス状
    • ★マッシュルーム 3−4個、薄切り
    • ★種無しオリーブ塩水漬 7−8個、薄切り
    • ホウレン草(ベビーリーフ)3掴〜4掴み、たっぷり
    • ゆで卵 2個、みじん切り
    • 胡椒

作り方

  1. サラミを細かく1センチ角の大きさにカットし、にんにく、オリーブオイルと一緒に炒める。
  2. 脂がでてきて、こうばしくなったら、水720mlとローリエを入れ、圧力鍋で10分圧力、その後蓋があくまで放置。脂が多い場合は、蓋を開けて脂を多少取り除く。
  3. ★の野菜とベーコンをカット。野菜は必ずしも指定のものでなくても良い。正直なんでも良いと思う。下の写真ではひよこ豆がなかったのでプチトマトを入れてみた。ベーコンやハムを入れるのは肉っぽい食感がほしいから。
  4. 3番を2番の中に投入、中火で煮立ててアクをとり、その後圧力をかけて再度加熱、やはり10分圧力、その後放置。
  5. このタイミングでゆで卵を作り、カットする。cut_egg
  6. 蓋が開いたら、圧力無しで加熱しながら、ホウレン草をちぎって投入、塩コショウで味を調節しながら、5分程度煮込む。
  7. ホウレン草がクタクタになったところで、最後にゆで卵を鍋に投入。完成。

召し上がれ!

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合わせる主食はご飯ではなく、是非美味しいパン屋のバゲットでいただいて欲しい。バターは自分のお気に入りのPresident。そして合わせるお酒は白ワイン。今回はドイツのリースリングで。

辛くないので子供もとても喜ぶ味。翌朝二日目の煮詰まったスープも美味い。

時短レシピ

面倒くさい人は、サラミを炒めた後、全ての材料を一度に鍋に入れ1回でスープを作ることも出来る。但し、自分が比較した感想では、美味しさでは微妙にダシ汁と具の工程を分けたほうがスープの味がしっかりするような気がしている。

 

フルタイム勤務になってからの家事について 前編

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私がフルタイムで仕事をするようになり、日本にいた時と同じ完全共働きとなった。

これまで平日は私がフリーランスの仕事の合間に日々の家事、および火曜日は仕事をセずフルタイムで子供の面倒を見ていた。ある意味仕事を家事育児に合わせて仕事量の調節を図っていたのだ。

しかしこれからは仕事の時間が固定となる。子供を全日ナーサリーに通わせる一方、家事育児のやり方についても新たなやり方が必要になった。行った改革は3つ。1. 平日の炊事の省力化、2. 夫婦間でのタスクの再配分、および3. タスクの外部化を行うことにした。

1. 平日の炊事の省力化:作り置き惣菜へ注力

正直、これまで私自身は作り置き惣菜というものに全く興味がなかった。煮物やおひたし、食べるのもイマイチ気分が盛り上がらない一方、作るのも億劫だ。

なんで食欲のない時に料理をしなくてはならないのか。子供が寝静まった夜中まで、折角自分の時間として使えるのに料理などしたくない、という気持ちが強かった。だが今回復職にあたり、子供のナーサリーの迎えは引き続き自分のタスクとしているため、平日にのんびり料理をする時間など無いことは明らかだ。

午後5時に会社を出て、すぐさま地下鉄に乗り込み、駅から急いで家まで戻って車に乗り込み、ナーサリーの閉まる午後6時までに迎えに行く必要がある。

8時台の娘の就寝を目指すと、ここから食事の支度をして7時までには娘の夕食を完了させたい。やはり作り置き惣菜+焼き魚などメイン一品+味噌汁という組み合わせで行くのが楽だ。

そこで意を決し、平日は料理を作るのはほぼ止め、週末にガッツリ惣菜を作ることにした。ホウレン草やブロッコリーは茹でて冷凍、イギリスには小松菜が無いのでチンゲン菜と油揚げで煮びたし、インゲンは茹でて胡麻ドレッシングとすり胡麻で胡麻和え、卵は茹でてタレに浸し味玉子、こちらでも抜群に安い鶏胸肉は下味をつけボイルして鶏ハムに。

しんと静まり返った午前1時、邪魔もないから粛々と料理ができあがる。出来たら冷ましてタッパーにどんどん詰め、冷蔵庫へ。結構効率よく出来るのでなんだか面白い。お惣菜づくりってやってみるもんだ。

普段は子供を待たせ、一人でテレビやタブレットで遊ばせている間に追い立てられるように作っているので心の余裕なんて全くないのだから。

作ったメニュー、かつ家族にウケが良かったメニューはレシピサイトのページをブックマークしてフォルダに集め、次回調理時にもすぐ取り出せるようにしておくことにした。

この生活にシフトしてよかったのは、食事がヘルシーになったこと。インゲンの胡麻和えやひじきの煮物など、常に4種類くらいの野菜中心の惣菜が食卓に上るようになった。特に娘は食べないのでは、なぜなら日中ナーサリーではパスタやミートボール、チキンナゲットを食べてるし、と心配たのだが、結構食べてくれた。うちの娘は若干重量オーバー気味だし、これは良い。

すっかり作り置き料理にハマった私は、来週の惣菜をどうするか、この週末の献立に向け、さっそくネットと料理本を研究し始めている。

つづく

イギリス人はスモーキーがお好き

個人的感想として、イギリス人の食べ物の味の好みは文化的子孫であるアメリカ人の味に基本的に似ている、しかしアメリカ人より少々大人、しかも男性的な味付けが好みのようだ。

ケチャップなど調味料はアメリカは甘みが強いが、こっちは甘みが少なく酸っぱい。ポテトチップス(こちらではクリスプスと呼ぶ、チップスはフレンチフライのこと)は塩味と酸味が効いているソルト&ビネガー味かバルサミコ味がこの国の定番。

しかしながら、この国の味付の男性的特徴はおそらくスモーキーフレーバーによるところが一番大きいだろう。調味料、ハム・ベーコンに始まり、魚の切り身、お酒、お茶ととにかく何でもスモーキーにしてしまう。そしてこの国のスモーキーフレーバーは半端ない。日本人が一般的に想像できる、炭焼や燻製のほどよい香りというレベルではなく、焚き火の煙をもろに吸い込んだ時のような香りが好きなのである。このあたりもアメリカのBBQ的なスモーキーフレーバーとは違いがあるようだ。

まあ、このスモーキーさもしょっちゅう味わっていると、どんどん中毒のように強烈な香りを求めるようになってしまうから恐ろしい。ここに幾つかイギリスの味を紹介する。

アイラ・モルト

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ご存知ボウモア、ラフロイグ、タリスカーなどに代表される、ピート香が強烈に漂うシングルモルトウイスキー。NHKの朝ドラのマッサンが「あのスモーキーフレーバーを再現したいんじゃ!」と言っていたのが記憶にまだ新しいが、日本人的には初めて口にすると石油石炭、もしくは消毒薬のような風味にぎょっとしてしまう。

ラプサン・スーチョン

LapsangSouchong
source: wikipedia

アッサムやダージリンとかアールグレイなどと同じ、紅茶の一種。中国産だが中国人は飲まないらしい、勿論日本でもあまり見かけないが、こっちでは普通にトワイニングのティーバッグがスーパーで売られている。この茶葉の香りは強烈、まさに紅茶界のラフロイグ。茶葉を松葉でいぶしているので茶葉が焚き火臭い、燃えカスかと思うくらいである。煮出したお茶はもはや焚き火に水をぶっかけて鎮火したあとの地面の水の様だ。特に私は子供の頃松の木が多い海岸沿いに住んでいたこともあり、焚き火は松葉を燃やしていることが多かった為、より鮮明に焚き火っぽく感じてしまうのかもしれないが。

スモークチーズ

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source: wikipedia

日本で売られているようなソフトタイプで表面がキャラメル色になっているあのおつまみチーズではない。もちろんあのような食べやすいスモークチーズもあるのだが、スーパーでジャーマンスモークチーズと書いてあったので、イギリス風ではないのではなかろうか。イギリス風はハードおよびセミハードなチェダーチーズに焚き火の香りががっつりついている。チーズ臭さがわからなくなり、旨味が引き立つような気がするのは良い点ではあるのだが、問題はスモーキー過ぎてワインとマリアージュしないこと。とくに赤ワインは味と香りがチーズと喧嘩して全く美味しくなく、チーズの主張に無条件降伏する安物の白ワインで十分である。むしろワインよりこちらのペールエールや、ギネスなどのスタウトビールと合わせたほうが美味しい。

タラの切り身の燻製

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スモークドハドック(小さめのタラ)、スモークドコッド(真ダラ)として売られている魚の切り身の燻製。燻されて白身の魚が真っ黄色である。これは焚き火っぽくはないのだが、さりとてスモークサーモンのような上品な雰囲気はまったくなく、ベーコンのような燻香の干物。淡白なタラの身が乾燥することで旨味が凝縮し、スモーキーフレーバーがさらに掛け算の如く旨味を引き立てている。バターで単に焼いてレモンをかけて食べても美味しいが、我が家では身を多少ほぐしてグラタンの具にする。スモーキーな大人のグラタンはビールのお供にピッタリなのである。

スモークドソルト

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source: wikipedia

煙臭い塩である。塩が燻されて黒っぽくなっている。これをふりかけると簡単にスモーキーな料理のできあがりとなる。肉にかけるとベーコンのような風味になって美味い。家でステーキを焼くときの下味は専らこの塩と胡椒を多めに刷り込んで焼く、すると肉の味と塩味だけで十分美味しく、ソースが不要になるほど。