これまでのあらすじ
父に花の都パリを一目見せたいと、ロンドンから鉄道で一泊二日の旅に出た。二日間という限られた中で可能な限り見どころを回るべく、初日から昼飯も盗らず歩きっぱなしの旅となった。
二日目は最終日、一つも取りこぼしがあってはならぬとばかり、昨日に続いて行軍は続く。
ホテルからまず向かったのがルーブル美術館。途中カフェで朝食をとるも、朝っぱらからまず2キロ歩いて到着。その後超特急でミロのビーナス、モナ・リザなどルーブル内の見どころを周り、昼はピラミッド駅の近くでフォーをすする。その後オペラ座まで歩き、そこからモンマルトルを目指す。途中ムーランルージュを見ながら丘を登り、丘の頂上サクレ・クールまで到着。丘に登るのはさすがにケーブルカーを使ったが。。
サクレ・クールのドームに登ろうとしたが親父はもはや膝が限界に来ており、自分だけ登ることにした。
サクレ・クールの螺旋階段を登りながら、大問題に直面することとなる。自分の鞄の中に入っていたはずのカメラがないのだ。肩掛けカバンを背中に向けていたので抜かれたのだ。
そこそこ高かったんだよ。キャノンのG16。
思い返してもどこで盗られたか思い出せない。最後に写真を取った場所だけは覚えている。ルーブルの中のモナ・リザの前だ。
ものすごい人で常にごった返すモナ・リザ前、写真を取って、鞄のポケットにさっと入れたところを後ろから見られていた可能性は高い。
でなきゃ、オペラから乗った地下鉄の中か。
もしくはモンマルトルに登るケーブルカーか道中か。
でももう遅い。こんなこと振り返ったってこの国で盗まれたものが帰ってくるはずなど100%ない。
すっかり意気消沈。弾丸ツアー最後の目的地、ノートルダム寺院を残していたが、全くやる気がなくなってしまった。
最後の望みをかけて、ピラミッドのベトナム料理屋へ戻るが、結果は☓。
ショックなのはカメラの盗難それ自体というよりも、その中に入っていたSDカード。この中に昨日のパリの写真も入っているが、前週に行ったコッツウォルズで撮った写真が沢山入っていたのだ。
原因の一つとして、自分のセキュリティ認識が甘すぎた。イギリスは思いのほか安全・安心な国で、日本とほぼ同じ感覚で住めてしまう。だからこそフランスでは親父の行動は監視して、財布を不用意に道端で出さぬよう注意したりしていたのだが、自分が疎かになっていた。情けない。
その後とぼとぼとシテ島へ。頭のなかは葬送行進曲。曇りきった私の目を通してみるノートルダム寺院の姿はまるで今話題の知事が居座る東京都庁舎にしか見えない。
こんなに後味のわるい旅も滅多にない。3部作の最後を飾るのに最適?最悪?なエンディングだ。3部作で不幸が止まれば、の話だが。
しかし70中盤の親父の足腰の強靭さには恐れ入る。当分健康で長生きできるのでは。これが唯一の良い話かも。